09/6/7

■ 『訪問者/恩田陸

訪問者

訪問者

『普通の人が見て分かるようなものではない。ずっと先にならないと分からない。』
ちりばめられた由来の定かでない断片的な『事実』が、その成り立ちを思い描く者に見せる、美しくもいびつな無数無限に分岐する仮想の『真実』。それはさながら覗き込む者の視点を攫い、その立ち位置を揺らがす万華鏡のように。
恩田作品にしてはスッキリまとまっていたなと思いつつ、事の本質や拭われぬ『より罪深き可能性』(犯罪の成立前提や、老人達が羽澤親子に親身になる理由)などを考察(妄想)すると、心の中にもやが残る作品だなと。
章タイトルになっている絵本の内容が、本編の暗喩的なサブテキストになっていそうな気もするのですが、その辺りの諸々も含めて誰か解説してくれぬモノだろうか。
ところで作中のプライベート・アクターな小野田氏って、既存の恩田作品にいましたっけね? どこかで見たような気がするのですが、まぁぶっちゃけいかにも『どこかで見たようなキャラ』なので、著者氏の作品の記憶ではない可能性も高いのですが。

■ 『モダンタイムス/伊坂幸太郎
モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

『実家に忘れてきました。何を? 勇気を。』
5月の休みに読了してたのをついでに記録。
週刊漫画誌で連載されていただけあって、展開の速さとそのドライブ感、そして『待て次号!』的な吸引力はピカイチ。印象的過ぎるキャラクターの魅力も相まって、ページをめくる手が止められずに一気読みしました。
しかし核心部のネタ(謎)が中二病文学系というか…ソレはソレでいいのですが、その『謎』の彫り込みが曖昧で、それを追う人々の熱意や意思の力に釣り合う魅力を保持し続けられていなかった気が。スケールの割には小さくまとまってしまった印象を受けたのが残念です。
で、人と謎との間で翻弄される視点は結局、そのどちらにも着地出来ない場所をさまよわされるというか放り投げられるというか…うーむ、上手く言えない。
反面、そうして辿り着く、『穏やかだが忸怩たる思いも拭えぬ、決していかにもな分かり易い大団円ではない着地点』に、現実的な風情と余韻を感じもするのです。
ゴールデンスランバー魔王 (講談社文庫)『魔王』の延長上で、『ゴールデンスランバー』の二卵性の双生児にあたる作品のようですが、そいやこの2作にも似たような印象を受けたっけなと。
まー何だかんだ言って、著者氏の人物造形と世界を語る文章の味が大好きなので、単にそれに耽溺しているだけで満足できてしまうのですよね<割と思考停止気味の発言だが、頭ではなく感覚の嗜好で読んでいるので仕方ない<弁明になっていない。てかきちんと頭で読んでいる作品があるのか自分は?