トムソーヤ/高橋しん/白泉社

トムソーヤ (ジェッツコミックス)母の死の報を受け、棄てるように去った故郷へと3年ぶりに戻った美大生のハル。よそ者であった自分に向けられる近所の人々の冷たい目と、都会での鬱屈した生活に倦んだ想いを巡らせていた葬儀の夜、ハルは家の庭に土地の子供達が密かに集うのを目撃した。その中で一際目を惹いたのが、土地の子供らしからぬ白い肌をした少年のタロ。
ハルの最初で最後の『少年時代』は、この海辺の小さな町の、うだるような夏の中で産声を上げた。
ハルとタロの加速してゆく『冒険』は、ふたりをどこへと連れてゆくのか?
世界的児童文学の傑作を著者氏が翻案した、現代日本版『トムソーヤの冒険』。オリジナルの方はうろ覚えなのですが、その辺を意識しなくても読める1冊に仕上がっています…まぁ、覚えていた方が面白いのかも知れませんが。
大人に成りきれず、子供にも戻れない。そんなハルの心に広がるいくつもの小さな波紋の上に、『子供』を謳歌するタロが投げ込む『冒険』が作る大きな波紋。
掴んだ荷物を全部捨てても、最後まで掌に握られた光る小石のような何か。長い人生の中では僅かでも、深く刻まれた記憶。
目映い光とそれが作る克明な影…それぞれではなくそのコントラストに目を奪われる、めくるめくひと夏のすべて。
果たして自分の『少年時代』はいつだったのかなぁと、夏の終わりにそんなことに想いを馳せる1冊でした。