2005/5/23

ふたつのスピカ 8巻/柳沼行メディアファクトリー
宇宙飛行士を目指して訓練に励むあすみと仲間達。彼らの前に突きつけられた新たな試練は、『かつて監獄だった施設からの脱出』というものだった。
時が過ぎて、幾度となく過ごした季節がまた再び巡ってきたとしても、それはかつて過ごした時間とは違う風景を運んでくる。近づいてゆく仲間達の距離や心とは裏腹に、彼らが振り返りながらもひたむきに前へと進むがゆえに、別離の気配は迫ってくる。まだ芽吹いたばかりの恋心ですら、花開く間もないままに。
主役であるあすみや仲間達はいつも未来を見つめて生きているこの物語ですが、それを読者として俯瞰する時に見る彼らのまとう色は、何故かセピア色を想起させるのですよな。その時は確かに現在であり、常に未来へと動いている時間であるはずなのに、どこか『かつてそうであった、いまはもう失われてしまった美しい時間の物語』を見ている気持ちになるのです。
それは自分が、『決して楽しい事ばかりではなかったのに、それでも輝いていた(いまはもう失われてしまった)時間へのノスタルジー』を、作品内の人物や、彼らの織りなすエピソードの中に幻視しているせいなのかもしれません。
それは例えば未来を夢見る気持ちを。あるいはままならない現実と戦う意志を。そしていつか確かに、誰かへと寄せたつたない想いを。