2005/8/10

少年怪奇シリーズ (3) 仔鹿狩り (アスカコミックス)子鹿狩り/なるしまゆり角川書店
「運転手のいない白いバンに乗れば頭が良くなる」
進学予定もなく就職も困難。先の見えない高3の少女は、優秀で少々鼻持ちならない中学生『小鹿くん』のその言葉に挑発され、売り言葉に買い言葉でついその車に乗ると口にしてしまう。
インチキな話だ、と思いながらも心ではそれを恐れる彼女の前に、だが、その車が本当に現れた。
おののく彼女に『子鹿くん』は言う…「もう生きてない奴には、言っとくけどまともに話は通じないぜ!?」
読み切り作品を収録する『少年怪奇シリーズ』の第三弾。今回収録の3本は、それぞれが独立した話でありながら、少しずつエピソードを持ち越したオムニバス形式の1作品。
自己の存在価値を問い、愛する者との繋がりを問い、虚構ではあっても決して嘘ではないものを綴る事への意味を問い…物語にえがかれた答えは著者氏のものであって、それは決して読み手の答えではないのですが、それでも自分の心のどこかが力強く頷くような気持ちにさせられる、そんな作品達です。
前巻収録作『ディープフリーズ』のユキヤと手白沢が再登場してくれたのも嬉しかったです。ユキヤ君のまっすぐさとかひたむきさとかには、相変わらず心を掴まれますよ。彼らの話はまた是非描いて頂きたいです。
ユキヤ君にしろ、『彼女の字』の由絵子ちゃんにしろ、なるしま作品の登場人物が持つ『誠実さ』という姿勢(方向性は様々でも、共に他人ではなく自分に恥じる事のない生き方)には、眩しい憧れを感じます。



月館の殺人 上 IKKI COMICS月館の殺人(上)/原作:綾辻行人・漫画:佐々木倫子小学館
幼い頃に父を亡くし、そして母が病死して天涯孤独となった17歳の高校生・空海に、突然現れた弁護士によって祖父の存在が知らされる。彼女は祖父に会うべく北海道の夜行列車『幻夜』に乗り込む事になるが、同乗する乗客達は、彼女の想像も及ばぬあまりにも奇妙な人々だった。
…そしてその事件は、沖縄育ちの空海を果てしなく混乱させる雪中の列車旅行のさ中で、突如起こった。
…推理モノなので、うっかり書くとネタバレしそうで怖い(^^;;)
人物描写の愉快さは、著者氏を知っている読者ならば「ああ!佐々木節!(笑)」と納得できる面白さです。夢見がちでおっとりさんな主人公のスッとぼけっぷりや、同乗者である鉄道マニア達の奇行など、ダメ〜な人を描かせたら、佐々木氏は本当に天下一品だよなぁと(褒め言葉)
割と2時間ドラマ的な始まりにも思えた物語の方も、様々な伏線を孕みつつ、そして巻末のあの驚愕の展開には「おお!綾辻モノはやっぱコレか(笑)」というニヤリとさせられるもので。
…しかしあと1冊で、遺産相続やら都内の連続殺人やら過去話やら、広げた風呂敷を全部畳めるのかがちょっと不安だったり。下巻が分冊されたりしないだろうなぁ?(^^;;)
佐々木、綾辻の両氏の既存作を読んでいる者としては存分に楽しめましたが…コレで鉄道に関する知識も備わっていたら、きっともっと面白かったのだろうなぁと思うと、何やら悔しい気持ちに。
あ、何の予備知識なく読んでも十分に面白い作品なので、そういった方にもオススメしたい1作です(自分のこの文章では面白さが伝わらなさそうなのがアレですが)