09/10/16

■ 『乙嫁語り/1巻』

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

19世紀の中央アジア。遠くの村から馬に乗り山を越えてきた美しい花嫁さんは、12歳の花婿より8歳年上だった。
花婿の年若さから、まだ形ばかりの夫婦生活を送るアミルとカルルク。けれどふたりは、互いの抱く『文化』の違いに小さな驚きと喜びを覚えながら、相手を思い遣り合いゆっくりと心を添わせてゆく。
だが、遊牧で暮らすカルルクの親族に結婚の報告をするために、ふたりが家を離れたある日、アミルの親族が彼女を政略結婚の道具に使おうと連れ戻しにやってきて…。
もー何つーか、先ずとにかくお嫁さまのアミル。その容姿と心のたおやかさ。けれど凛々しい強さ。なのにまだ少女の無垢と素朴を残した言動のひたむきさ。などなど、その魅力に魂が引っこ抜かれました。
で、お婿さまのカルルクもまだ幼いながら、聡明かつ思い遣り深き紳士で、今後の成長が楽しみちうか、「君が夫ならばアミルを任せられる!」と勝手に父親の気持ちに…<まぁ作中のアミルの親族はアレなカンジですが(腹立たしい)
そして絵自体の描き込みと美しさが凄過ぎで。作中のあらゆる服飾や意匠や造形と、その中心に在る人物の、微に入り細に渡り(穿つ)繊細な描画は、もうマンガというより画集の域。
加えて凄いなと思うのが、そういう技巧派のマンガ家氏は、うっかりすると『マンガ』ではなく『絵本』のような作風になってしまったりするのですが(まぁソレはソレで良かったりもしますが…)、著者氏の作品はやはり『マンガ』だという点なのですよな。
馬を駆り獲物を射るアミルの躍動感に目を奪われ、そんな彼女とカルルク(や周囲の人々)とのやり取りから見える感情の機微に心を惹かれ、それらが紡ぎ出す『物語』には胸がときめきます。
絵も人の心の在り様も、その全てが美しく、読んでいる間に何度も溜息が漏れましたよ…うわー、本当に素晴らしい作品だよなぁ。
そして全てが新鮮で真新しく見える、異国で過去な文化の背景。けれどもそこで生きる人々の、日々の営みと想いの形は、今を生きる自分にも共感できるもので、そのどちらにも心が踊ります。
ゆっくりと親愛を深めてゆく若き夫婦(未通)が、今後どのように恋情を覚え、より深い愛情で結ばれてゆくのかと思うと、その物語が今から楽しみでなりません。このふたり(と家族)ならば、前途に待ち受け避けられぬ暗雲も、きっと越えてくれると信じておりますよ。
てかもー、あんな勝手な実家にアミルは絶対に渡しちゃならんですよ! 祖母様グッジョブ! 素晴らしいぜエイホン家!
…と、若夫婦と新しき家族を熱烈に応援しつつ、続巻を心待ちにしております。

■ 『きみのカケラ/7巻』
きみのカケラ 7 (少年サンデーコミックス)

きみのカケラ 7 (少年サンデーコミックス)

その『壁』の向こうには、あらゆる夢と希望に溢れた土地があるはずだった。
だから死に向かい絶望の淵に沈む世界であがき、彼らは『壁』を打ち破ることで未来へ望みを繋ごうとした。
そうして多くの命と引き替えに開いた道の先、『壁』の向こうには確かに『美しい世界』が広がっていた…けれど    
連載時にはあまり語られなかった大佐の人となりや、玉やエリザベスとの心の繋がりの強さが垣間見えるエピソードが追加。
『壁』の先に見付けたもの。そこにあった景色ではなく、それを求めた彼らが胸に抱いた強い想いが、その涙が、何よりも悲しく…けれどもとても尊く目映いものとして心に焼き付けられました。
王女と少年が進む先に広がる『世界』がどのような姿なのか…ふたりの繋いだ手がもう離れませんようにと願いながら、その景色を待ちわびています。

■ 『雨無村役場産業課兼観光係/2巻』
雨無村役場産業課兼観光係 2 (フラワーコミックス)

雨無村役場産業課兼観光係 2 (フラワーコミックス)

過疎の進む地元の村役場にUターン就職した銀一郎は、観光地化で村おこしを計ろうと東奔西走。幼なじみの恵や友人の澄緒との三角関係に心を悩ませつつ、季節は村で迎える2年目に…。
うわ、1巻の感想書いてなかった。
仕事や日常の出来事、そしてそれにまつわる人の気持ちを季節ごとに緩やかにえがく作品ですが、独特のテンポで語られる物語は、その些細な一つ一つに味わいを感じられます。
いいことも悪いことも、ちょっぴりの幸せもかすかな寂しさも、けれど穏やかな波風が水面を揺らすように、静かに確かに心や距離を動かしてゆくのです。
同時収録の前後編は、気持ちの優しい子たちがちょっと不思議な夢に心を動かされて、互いの距離をそっと近づけてゆく恋愛模様をえがいた物語。
『何がどうした』という話そのものではなく、筋は明確なのにどこか輪郭がおぼろげな、ふわふわ感を覚える彼らの気持ちのやりとりが、曖昧なのに妙に印象深く思える作品でした。優しくて、だから少し悲しくて、でもほんのり温かい…そんな感触(てか印象)。